大判例

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東京高等裁判所 平成12年(ネ)1566号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ(以下「請求1」という。)。

三  控訴人が原判決別紙物件目録記載二及び三の各建物(以下「本件建物二及び三」という。)につき所有権を有することを確認する(以下「請求2」という。)。

四  被控訴人は、原判決別紙物件目録記載四の建物(以下「本件建物四」という。なお、同目録裏九行目の「平屋建」を「平家建」に訂正する。)につき滅失登記手続をせよ(以下「請求3」という。)。

五  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

本件における当事者の主張は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  請求1について

1  原判決四頁二行目末尾に続けて「なお、控訴人は、右の離婚は、両当事者の本国法である中華民国(台湾)民法の定める手続を経ていないから無効であり、したがって、財産分与もあり得ないこと、仮に離婚が有効であるとしても、同民法は財産分与を認めていないから、控訴人の被控訴人に対する財産分与は効力を有しないことなどを主張する。しかし、中華民国民法は協議離婚を認めているから、日本の市町村に協議離婚の届出をすることにより、本国において有効な離婚があったと認められるかどうかはともかく、少なくとも日本では有効な離婚があったというべきである。また、財産分与を認めないとすることは、配偶者に酷に過ぎ公序良俗に反するから、平成元年法律第二七号による改正前の法例(以下『旧法例』という。)三〇条により、中華民国民法は適用されないと解すべきである。よって、本件の財産分与については、日本民法が適用されるから、控訴人の被控訴人に対する財産分与は有効である。」を加える。

2  原判決四頁八行目の「離婚したこともなく」を「離婚したことはない。すなわち、控訴人は、被控訴人との離婚届に署名したが、それは当時負債を抱え取立てに追われていた控訴人が、借金取りに対する方策として偽装離婚を被控訴人から持ちかけられ、それに応じた結果であって、離婚届が実際に提出されることなど全く予想していなかったものである(仮に、離婚届の存在により離婚意思の表示があったというのであれば、控訴人は、被控訴人と真実離婚する意思を有していなかったから、離婚の意思表示は錯誤により無効である。)。このように離婚が成立していない以上、控訴人から被控訴人に財産分与がされるはずはなく、」に訂正し、同五頁三行目末尾に続けて「仮に離婚が有効に成立していたとしても、中華民国民法は財産分与を認めていないから、控訴人の被控訴人に対する本件土地の財産分与は効力を有しない。」を加える。

二  請求2について

1  原判決六頁七行目末尾に続けて「なお、控訴人と被控訴人の離婚及び財産分与が有効であることは、前記一3(一)のとおりである。」を加える。

2  原判決七頁三行目の「原告と被告の離婚は成立していないから、」を「控訴人と被控訴人の離婚は成立しておらず、仮に離婚が成立していたとしても、控訴人の被控訴人に対する本件建物二の財産分与は効力を有しないから、」に訂正し、同四行目末尾に続けて「また、本件建物三は、控訴人が被控訴人名義で購入し被控訴人に営業を任せていた建物(喫茶店)の収益(売上げ)の蓄積を資金源として建築したものであるから、右の売上げが帰属する控訴人が本件建物三の所有権を取得したというべきである。」を加える。

三  請求3について

原判決八頁一行目の「前記二の1」の次に「の」を加える。

第三当裁判所の判断

当裁判所は、本件全資料を検討した結果、控訴人が本件土地並びに本件建物二及び三の所有権を有していると認めることはできず、本件建物四の登記の存在により控訴人の所有権が侵害されているということもできないから、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決「理由」に説示のとおりであるから、これを引用する。

一  請求1について

原判決一一頁二行目の「手続」の前の「登記」を削除し、同九行目の「右認定事実」から同一二頁二行目末尾までを以下のとおり訂正する。

「(二) 以上の認定事実によれば、被控訴人は、控訴人から本件土地の財産分与を受けてその所有権を取得したということができる。

(三) ところで、控訴人は、被控訴人との離婚届に署名したが、それは当時負債を抱え取立てに追われていた控訴人が、借金取りに対する方策として偽装離婚を被控訴人から持ちかけられ、それに応じた結果であって、離婚届が実際に提出されることなど全く予想していなかったものであるから、離婚意思はなかった(仮に、離婚届の存在により離婚意思の表示があったというのであれば、控訴人は、被控訴人と真実離婚する意思を有していなかったから、離婚の意思表示は錯誤により無効である。)と主張する。しかし、右の当時、控訴人が負債を抱え取立てに追われていたことは認められるものの、被控訴人が偽装離婚を持ちかけ、被控訴人がこれに応じて離婚意思のないまま離婚届に署名したことを裏付ける証拠はない。むしろ、控訴人と被控訴人は、控訴人の女性関係が原因で長期にわたり家庭内別居の状態にあり、婚姻関係は完全に破綻していたと解されることからすると、離婚届の提出は真意に基づくものであったと認めるのが相当である。したがって、離婚意思の不存在又は錯誤による離婚届の提出という控訴人の主張は、いずれも失当である。

また、控訴人は、被控訴人に本件土地及び本件建物二を財産分与したことを強く否定し、他にめぼしい財産のない控訴人が被控訴人にこれらを財産分与してしまうことはあり得ないと主張する。しかし、控訴人は、その当時負債を抱え取立てに追われており、このまま放置すれば本件土地及び本件建物二に強制執行を受けるおそれがあったから、控訴人は、離婚後も控訴人が本件建物二に居住することを認めることを前提に、本件土地及び本件建物二を被控訴人に財産分与したと見ることができる。加えて、右に説示したとおり、控訴人は、自らの女性関係により被控訴人との婚姻関係を破綻に至らしめていたのであるから、その慰謝料という意味を込め、被控訴人に本件土地及び本件建物二を分与したとしても不自然ではない。したがって、控訴人は、被控訴人と離婚するに当たり、本件土地及び本件建物二を被控訴人に財産分与したというべきである。

(四) 控訴人は、控訴人と被控訴人の離婚に関しては本国法である中華民国民法が適用され、同民法でも協議離婚が認められているが、本件の協議離婚においては同民法が要求する手続がされていないから、両者間に離婚は成立しておらず、したがって、財産分与もあり得ないと主張する。しかし、離婚の方式については、婚姻のような特別な定め(旧法例一三条一項ただし書)がないから、旧法例八条が適用されると解するのが相当である。そうすると、本件の協議離婚は、同条二項により行為地法である日本法の手続によることができるところ、控訴人と被控訴人の離婚届は適法に世田谷区長に受理されていることが認められるから(乙一、二五)、控訴人と被控訴人の離婚は有効に成立したというべきである。

(五) さらに、控訴人は、中華民国民法は財産分与を認めていないから、控訴人の被控訴人に対する財産分与は効力を有しないと主張しており、同民法が財産分与を認めていないことは、被控訴人も自認しているところである。しかし、協議離婚に際し、夫から妻への財産分与を全く認めないことは、我が国の公の秩序又は善良の風俗に反するものといわざるを得ないから、旧法例三〇条により、財産分与を認めない中華民国民法は適用されないと解すべきである。そうすると、財産分与の成立及びその効力は、日本民法によることになるから、控訴人から被控訴人に対する本件土地及び本件建物二の財産分与は有効である。」

二  請求2について

原判決一三頁一〇行目末尾の次に改行し以下の認定を加える。

「 なお、控訴人は、本件建物三の建築資金には、控訴人が被控訴人名義で購入し被控訴人に営業を任せていた建物(喫茶店)の収益(売上げ)が充てられたから、右の売上げが帰属する控訴人が本件建物三の所有権を取得したこと、Aが支払を受けた交通事故の損害賠償金は、世田谷区<以下省略>所在の土地建物の売買代金に充てられており、本件建物三の建築資金には充てられていないことなどを主張する。しかし、被控訴人が経営していた喫茶店の売上げが本件建物三の建築資金の一部に充てられたことは前記説示のとおりであるが、控訴人が被控訴人名義で右の喫茶店を購入したとの事実を認めるに足る証拠はないし、右の喫茶店において現実に稼働していたのは被控訴人であるから、その売上げは被控訴人に帰属すると解すべきである。また、Aが取得した交通事故の損害賠償金が本件建物三の建築資金に充てられていないとの主張は、具体的な裏付けのないものである。したがって、控訴人の右の主張はいずれも採用することができない。」

三  結論

以上のように、控訴人が本件土地並びに本件建物二及び三の所有権を有することを前提とした控訴人の請求はいずれも理由がない。したがって、同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)

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